「ひとつの装置」星新一
みなさん、学生時代はどんな本を読んでいましたか?
私は小学生のころから読書は好きな方で毎週土曜日には近所の市立図書館へ通っていました。
その頃の将来の夢は獣医さんだったので動物の本をよく借りては読んでいました。
そんなある日、図書館で何となく手に取ったのが星新一さんの本でした。
表紙のイラストが可愛かったので借りて帰った記憶があります。
これがめちゃくちゃ面白かったんですよ。。。
短編で読みやすいしオチがどれもきれいにまとまっている。
こんなに読みやすい小説があるのかと夢中になって読み倒しました。
学校でよく朝の読書10分間、ていうのがありましたよね?
この時間に星新一さんのショート・ショートがぴったりだったんですね。
ただ10分間に上手く読み終えればいいのですが、これがあと1ページを残して
「じゃあ授業を始めまーす。」
なんて言われた時には続きが気になって気になって。。。
1時間目が終わると秒で本を開いていました。
さてさて年月がたった現在、27歳の私ですが未だに星新一さんの作品はよく読みます。
なんせ作品数が多いので意外と忘れてしまうエピソードも多いわけですよ←
いい意味で2度3度、楽しめる!
いやもう永遠に楽しめるのが星新一さんの作品なのです。
ただ約20年前に読んだ作品でも、いくつかの話はずっと心に残ってたりするんですよね。
その中で今回、紹介したいのが「ひとつの装置」という作品です。
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国立の威厳ある研究所の所長が「ひとつの装置」をつくりました。
これは人類には必要不可欠な装置であり、予算と博士の全ての技術をつぎ込んで制作を進めるんですね。
税金が使われるにも関わらず何が作られるかは秘密である。
人々の好奇心も集まってゆく。
どんな装置で何の役に立つかは全く明かされていませんが、人々の税金も予算も博士の全財産もすべてつぎ込んで作りだされたのが「ひとつの装置」でした。
装置は円筒型で胴の真ん中、中央あたりに出べそのような押しボタンがついていて
外側には人間のような腕が一本ついているだけのものだったわけですよ。
発表の場で博士が言いました。
「これこそもっとも必要であり、人間的な装置と言えるでしょう。
これは何もしない装置です。」
え。。。
この装置は広場の中央に設置され誰でも眺めたり触れるようになりました。
そしてついに装置の真ん中にあるボタンを押すものが現れました。
機械の動く音がします。
側面の腕が伸びて押されたボタンを引っ張り出すように元に戻しました。
そのあとは今までと同じく、ただの何もしない装置です。
何回ボタンを押しても、押されたボタンが元の位置に戻されるだけでした。
所長はこのなにもしない装置に巨額な税金も予算も全財産もつぎ込んでいた。
そんなわけで免職され、さらに精神病院に送られてしまいました。
やがて数年後に所長は息を引き取り、装置の謎は永遠のものとなったんです。
装置の方は相変わらず広場に設置されており、取り外すことも分解して中をのぞくことも技術的に不可能でした。
ただ広場に存在し、たまに誰かにボタンを押される。
そして年月が経ち、よその国の恐るべき装置。
押されるべきではないボタンの方が押され、ミサイルが飛び交い全ては破壊され、生物が消え去りました。
装置は誰かがボタンを押してくれることを待ち続けました。
装置の内部の時計はボタンが押されなくなったから千年の月日が過ぎ去ったことを計っていました。
それは、もはや人類が滅びたことへの判断でもあった。
装置は最初で最後の本来の機能を発揮するのです。。。
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一体この装置にはどんな機能があったと思いますか?
私は何年も前にこのお話を読んで「ひとつの装置」がその役割を果たすイメージがずっと心に残っています。
お話の導入部分から気怠さが漂っていて、その後から後半にかけては、人々の装置に対する期待や疑問で賑やかな場面が頭に浮かぶけれど、後半でまたガラリと雰囲気は変わってしまう。
無機質で虚無感がありながらも、所長の思いを考えるとどこか心が温まるような感じがするのです。
「ひとつの装置」は『妖精配給会社』(新潮文庫)に収録されているので、気になった方は是非読んでみてください。
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